藤澤武夫のことば
近代産業への道
(1966.S41.11 社報 藤澤武夫)
ホンダの将来
ホンダは一見大変回り道をしているように見られるかも知れない。
技術、販売の面にもその例は数々あるが、生産設備への大量投資などもその例である。
設備を持たないで生産をし、儲けているメーカーもある。しかし大量の設備投資をいかした多量生産こそ近代産業の基本である。
多量生産を維持し、その特長をいかし、その時代にマッチした製品を作っていけば、そこに世界に覇をなす企業が誕生すると思うんです。日本でトップになれば、世界のトップになれるのです。言いかえれば、日本で勝たなければ、企業の未来は安泰でないのです。
近代産業にふさわしいやり方
近代産業にはそれにふさわしいやり方があるはずである。世界でいちばんの多量生産メーカーであり、最新鋭の設備を持っているホンダとすれば、世間が知らないうちに何とか解決しておかなければならない問題だ。設備投資が効率的に行なわれ、それが有効に稼働しなければならない。一本調子の生産だけでは、これからはやっていけない。
ホンダの連中にはこれをやる頭脳も力もあるはずだ。こういった点を、いろいろ考えてもらうように指導しなかったことを私は申し訳ないと思っている。"多く作る"だけでは多量生産企業ではないのです。
また、多量生産を可能とするためには、これにふさわしい販売がなされなければならないことは、言うまでもありません。営業もその方法、手段を考え実行すべきです。
そこで、製作所のみなさんにひとつだけ言っておきたいことがあるんです。
それは四輪について非常に苦労して販売に取り組んでいるときに、クレームをださないようにということなんです。クレームといってももう至極簡単で、そこのところをちょっとどうにかすればなんでもいな、といったごくつまらないものなんだ。しかし、そんなものでもお客さんにとっては重大なものだ。今の日本では、お客は、クレームのつくような車を買わなくとも済むようになっている。
アメリカでは一年間の二輪のクレーム代金が五億にもなる。パーツを飛行機で送り、お客さんにサービスをしてもおこられ、パーツを常に準備しておかなければならないので資本がいる。
この五億の金は我われにとって重要だ。我われの未来にカゲをさすものはこういうところにもある。これは検査が悪いんだとか誰が悪いんだとか言ったって、我われ全体がかぶるのだ。そのために、みんながつらい思いをし、茨の道をもっと、茨にするだけなんだということを忘れないでいてほしい。
四輪の売り上げにしても、全メーカーの総売り上げ台数は、十月は上向いているのに、ホンダは残念だけれど下向いている。値下げ当初、ちょっとよかったが、クレームがついて販売店は売る気をなくしてしまった。
しかし、ホンダの今の立場からしてこういったことは絶対あってはならない。今はこうした重要なときだ、ということを認識してほしい。
ホンダは今第二の転換期に入っている。
近代産業へ脱皮すべき時期である。
私は本当のことを言えば、来年あたりから、二位のオートバイメーカーにぐっと格差をつけてしまいたいと思っている。
幸い、四輪も一本立ちできそうだし、農機関係も充実してきたので、我われは世界の中で、もっともっとより優れた地位にありつきたいと思うんであります。