藤澤武夫のことば
ドイツから帰って
(1957.S32.3 社報 藤澤武夫)
値引きは一回の問題で、信用は永久の問題
何を買っても、自分の買っているものは、その国の物価にふさわしく決められた金額だ。それよりも高くも安くもない。あたりまえなのだという。このあたりまえということが大事だろうと思う。これが全ドイツにしみ渡っているところに、ドイツの信用が生まれているのではないか。これはなかなか重要な問題だと思う。
デパートが定価を守っているのだから、個人商店も定価を守るように持っていくべきで、そこに日本の個人商店の繁栄がある。値引きしたために、必ず信用が得られるかというと、値引きは一回の問題で、信用は永久の問題だということ、これは重要な問題ではないかと、こういうふうに考えて帰ってきた。
あまり数が多いと必要なことも忘れる
事務所の中もじつに綺麗、机の上には何もなく、まるで舐(な)めてしまったよう。棚でもなんでもじつに綺麗に整理されている。書類等もある一定の場所に保管されて、そこにいけばなんでもわかるように整理されている。だから皆がいちいち書類をもつ必要がない。紙の消費量は文化に比例するといわれるが、工場の中では、あれは違うと思う。だいたい新聞なんかでも、毎日あんなに沢山のものを読んで覚えるということは、ありっこない。文字だの数字だのを印刷物にするということは、記憶に残らせるか、または記録として残すか、この二つだろう。そうして毎日だされているものを、記憶として残らされたんじゃたまらない。頭が幾つあっても足りない。だから大抵忘れるという法則に従っている。あまり数があると必要なことでも忘れる法則に入ってしまう。だから紙をなるべく少なくすることが文化水準を高めることだということを提唱したい。工場でも事務所においても、能率的な整理・整頓、また事務の簡素化ということはわが社でも、もっとも考える必要があると思った。