本田宗一郎のことば
製品にウソはない
(1957.S32.3 社報)
フォードの工場、フォルクスワーゲンの工場、ベンツの工場を見たが、非常にオートメーション化されてきているようである。
皆さんが考えた場合、ドイツと言えばフォルクスワーゲンとすぐに考えられるだろうが、フォルクスワーゲンはどのくらい走っているかというと、割合はそう高くない。ベンツが非常によく走っている。私が前にいっていちばん感じたことは、ベンツは内容が整っていて、実によい仕事をしているので、これが復興したら相当のものになるだろうということであったが、今度いって、完全にそれを裏付けしていることが分かった。
いつの世にも良品に国境なしと申しますが、やはり世界に誇るものを作っている工場は、工場自体の気風が違う。王者の気位を持っているということがうかがわれた。
もう一つは、口や書き物では本当のことでなくて、嘘を言ったり書くことができる。自分の思わないことでも平気で言ったり、書いたりする人間がいる。しかし製品というものは決して嘘ができない。その人ズバリの物が出ている。人の模倣をすればそれが出る。だから、製品を見ればその工場の特徴がはっきり出ているのが分かる。ボルト・ナット一つにしてもその工場の持っているものが表われて、実に製品は恐ろしいなということを痛感した。いちばん嘘を物語らないのが製品であるということである。
非常にうれしく感じたことは、工作機械のかなり精度の高い、世界的なものを日本からたくさん注文しているということ。この優秀な機械が全部日本に入ったときには、日本の工業は相当高く評価されるべきだと私は感じ、実に頼もしい姿だと思った。