本田宗一郎のことば
目前の利害にこだわるな
(1955.S30.2 明和報 本田宗一郎)
徳川時代にいちばん儲けた者は誰であったか。
これは商人である。
この商人は、外国との貿易を禁止されていたため、その規模構想は非常に局限され、勢い国内でブローカー的、人の小股すくい的なものをやるような気風が一般に生まれた。そして、永い封建的時代が続いたため、人を疑い易くもなった。
いろいろの原因があるであろうが、会社にあっても、小さな縄張り、大きな縄張り等がある。縦の命令系統、言い換えれば、出世系統に非常に敏感であり、その系統同士は仲がよいが、その系統を別とする人に、つまり横の協調に対しては、闘争的な感情を持って、お互いに、相手の美点、優秀なものを叩きつぶすことに頭脳を働かせ、活躍すべき最も大事な青年時代をこれに費やして、後は、その惰力で、壮年時代を暮らすことが多過ぎはしないだろうか。そのことが、目前の利益、損失にだけこだわらせ、重役同士、部課長同士、社員同士が心で闘争し続けることが、大きな目標-世界的製品を生産しようとする-を達成しないで優秀民族の頭脳を活用しないことにもなるのではないだろうか。