本田宗一郎のことば
百二十パーセントの良品
(1953.S28.3 月報 本田宗一郎)
わが社においては、完成品はもちろん部品に至るまで百二十パーセントの良品を目指して努力している。百二十パーセントの良品というと一応奇異に聞こえるであろうが、百パーセントの良品を納めることができないからである。
目標を百パーセントに置く場合、人間のすることであるから、事実一~二パーセントの不合格を免れ得ない。
二月の生産目標はドリーム号二千二百台、カブ号1万台であるが、これ等の製品をお買い求め下さる方にとっては、その製品は二千二百分の一でもなければ、一万分の一でもない、一分の一であり、その一台一台が本田技研の全技術と全信用とを担う一台である。
お客様にとっては、お手に渡った一台が本田技研そのものなのである。たとえ何千台、何万台の中の一台であっても、何千、何万分の一であるといっても許して頂けないのである。
何千分の一、何万分の一台の不合格品を許さぬためには、どうしても百二十パーセントの良品でなければならない。
「お客様こそ我われのご主人であり、わが社にとって何物よりも貴い宝である」とは常に私が言っているところであるが、我われの至宝のお客様の全部に、文字どおり一人の例外もなしにご満足頂き、信用して頂くためにはいかなる困難をも克服して百二十パーセントの良品を作らねばならない。
製品こそ最高最大の宣伝者であると言われるが、私は製品のことごとくがわが社の全技術、全信用を担う全権大使であると言いたい。
ひるがえって、このことはわが社に部品を納入して下さる下請けの各位に対しても、ご理解頂き、ご協力、ご実施願いたいことである。
ビス一本が不良であっても、本田技研の製品は不完全のそしりを免れ得ない。下請け各位よりお納め下さる部品に対してわが社で検査を行なうことは、下請け各位に対する大きな侮辱であることをご理解下され、絶対に自信のある百二十パーセントの良品をお納め下さるよう切にお願い申し上げる。
九十九パーセントの合格と言えば優秀な合格率と思われるであろうが、その一パーセントの不合格が製品となってお客様の手に渡った場合には、お客様に百パーセントの不合格品をお渡ししたことになるのである。
またわが社では、お客様に対して百パーセントのサービスを念願とし、満点をもって及第点としている。デーラーの皆様におかれても、この百パーセントのサービスを達成するために、百二十パーセントのサービスをお願い申し上げる。
お客様に対していかにサービスしても、サービス過剰は絶対にあり得ないからである。