本田宗一郎のことば
新しいアイデアを期待する
(1964.S39.7 社報 本田宗一郎)
いちばん大切なことは、前向きの姿勢、意志があるかないか。その大事な条件は自分のアイデアによって支えられ、行動しないと意志は働いてこない。自分でやってみて、反省する。これが大切だ。
自分のアイデアをださずに、意志があるとかないとかいうのはくだらない。一日二十四時間、いかにエンジョイするかが問題なんです。働くことにエンジョイを求めることは自分次第だ。自分のアイデアで仕事をしていけば、仕事もエンジョイすることができる。また、そういう人間は苦痛もエンジョイすることができる。
アイデアが出ない人はエンジョイできない。面白くないということを人のせいにするなんて馬鹿げている。自分でアイデアをだせば面白いはずだ。前向きの姿勢ということを言ったが、それは、人のためでなく、自分のためなんだ。アイデアをだすこと、アイデアの上に立って働くことだ。命令されずに。
もう一つは時間だ。時間がなくては我われの仕事はできないんだから。
大勢の集合体である以上、秩序を乱しては絶対にいけない。これは大切な条件だ。その条件を無視して、アイデアをだそうということは無理だ。法律を守らないで、自分は保障してくれというのと同じだ。我われは本田技研という集合体にあるんだ。我われはその中の秩序を守るところに、生活の保障があり、向上があると思う。これを無視してはアイデアもない。秩序、これが基本だ。
人間は刺激されないと発展しない。困ったとき、苦しいときの知恵が尊い。発明する条件でいちばんいいのが、苦しむこと。経験して苦しむということだ。苦しめば苦しむほど、人から見ればわずかな発明でも、自分にはどれだけの栄誉か分からない。栄誉があって、苦しみがないということは絶対ありえない。この二つの同居人を片方だけ追っ払って、上澄みだけとろうなんてできない。失敗もいい。もし失敗もせず、問題を解決した人と、十回失敗した人の時間が同じなら、十回失敗した人をとる。同じ時間なら失敗した方が苦しんでいる。それが根性となり、人生の飛躍の土台となるから。ただし、理論からはずれた失敗はいけない。
今のホンダは先輩がシャニムニやって、ここまできたのだ。若い君達をなぜ採用するかというと、単に生産が伸びて人手がいるからではないのだ。ホンダのよいところを吸収して、悪い点を新鮮な活力をもって、どんどんよくしていってもらいたいんだ。新しいアイデアをだしてもらいたいんだ。若い君達に先輩は夢を託しているんだ。日進月歩の厳しさに耐えて、ぐんぐん伸びていく知恵と勇気、実行力を期待していることを忘れないでくれ。