本田宗一郎のことば
ひとりよがりを排そう
(1964.S39.11 社報 本田宗一郎)
自由化の功罪のうち、功の中には、自由化することによって海外の製品が自由に入ってくると同時に、日本の商品もまた海外に進出できるという互恵のプラスがある。それと同時に我われにとって大切なことは、大衆が外国品と国産品を直接に扱って判断してくれるから、メーカーである私達は、自分の進むべき方向が分かってくるということだ。大衆が、いいか、悪いか、判断してくれるチャンスが非常に多いということである。
つまり、作っている品物がいいか悪いか、我われの企業が、これでいいのか、悪いのかということを身近に察知できることだ。
ここを一つ、みんなで肝に銘じようではないか。つまり大衆の判断によらない、ひとりよがりではだめだということ……。いま日本の自動車が、世界的水準とか国際競争力があると言っているけれども、私から見ればひとりよがりのような気がしてならない。
うちだって、今でこそ世界一だなどと言われているが、これは何もうちが先頭に立って世界一だと、世間に向かって宣伝したわけではない。
みんなが苦しみに苦しんで、アイデアを活かし、創造してきたからこそ、ユーザーの人達が、だんだんと認めてきてくれたからで、ひとりよがりでなかったから、ここまで伸びたのだ。
むろんそこには、デーラーの人達の、たゆまない努力も、大きくあずかっている。
第一、通産省が法律を作って輸入を防止したところで、日本の企業が永久に伸びるとは言えない。だから一刻も早く自由化に踏み切って、大衆に判断してもらって、少しでも早目に企業の方向を正した方が得なのだ。自分の企業がかわいかったら、大衆に早く判断してもらうことである。
日本の大衆に、比較対照できる外国品もあてがわずにおいて、今、国産品が売れているからといって、国際的水準にあると考えているとすれば、それはきわめて危険な考え方ではないか。
いい品物かどうかはメーカーが判断するのではなく、大衆が判断してくれるものであることを決して忘れてはならない。