本田宗一郎のことば

T・Tレース出場宣言

(1954.S29.5 月報 本田宗一郎)

 

 

 わが本田技研創立以来ここに五年有余、画期的飛躍を遂げ得たことは、全従業員努力の結晶として誠に同慶にたえない。

 

 私の幼き頃よりの夢は、自分で製作した自動車で全世界の自動車競争の覇者になることであった。しかし、世界の覇者になる前には、まず企業の安定、精密なる設備、優秀なる設計を要することはもちろんで、この点を主眼としてもっぱら優秀な実用車を国内の需要者に提供することに努めてきたため、オートバイレースには全然力を注ぐ暇もなく今日におよんでいる。

 

 しかし今回、サンパウロ市における国際オートレースの帰朝報告により、欧米諸国の実状をつぶさに知ることができた。私は現実に拘泥せずに世界を見つめていたつもりであるが、やはり日本の現状に心をとらわれ過ぎていたことに気がついた。今や世界はものすごいスピードで進歩しているのである。

 

 しかし逆に、私の年来の着想をもってすれば必ず勝てるという自信が昂然と湧き起こり、持ち前の闘志がこのままでは許さなくなった。

「絶対の自信を持てる生産体制も完備した今、まさに好機至る!明年こそはT・Tレースに出場せんとの決意をここに固めたのである」

 

 わが本田技研はこの難事業をぜひとも完遂し、日本の機械工業の真価を問い、これを全世界に誇示するまでにしなければならない。わが本田技研の使命は日本産業の啓蒙にある。

 

 ここに私の決意を披瀝し、T・Tレースに出場、優勝するためには、精魂を傾けて創意工夫に努力することを諸君とともに誓う。右宣言する。

 

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