
広い視野
当時本田技研・専務取締役 藤澤武夫さんが語った挨拶を紹介します
★ アメリカ的サービス
カリフォルニアにあるうちの販売店を訪ねた時の話だが、ショールームの一隅に、日本の喫茶店にあるようなピーナッツやキャンデーの小型の自動販売機がいくつか並べてあったのには驚いた。
日本の販売店では、お客さんが訪ねてくれば、コーヒーを出したり、サービスにこれ勤めるのが常識だが、アメリカではどうやらお客に身銭をを切らせてキャンデーをしゃぶらせるらしい。
ざっくばらんなヤンキー気質の表れだと言っちまえばそれまでだが、これには国境を超えた顧客に対する深慮遠謀がひそんでいるようだ。
この深慮遠謀は、自分を客に仮定すればすぐ解ける。
ある商品を買いたくてぶらっと店に入る。
商品をゆっくり眺めて、セールスマンを半ば冷やかしながら、その商品の良いところ、欠点をキャッチしながら、これならいけるというところではじめて商談が成立するわけである。
そこには各人の性格、好みに合わせた独特の間合いがあるはずだ。
それをいきなり無視されて、カタログを洪水のように並べられ、お茶だ、ケーキだと攻め立てられれば、お客は一種の圧迫感を感じて聞きたいこともロクに聞けないでそそくさと店を立ち去るほかない。
もしその商品を買ったとしても、決して納得して買ったわけではなく後味の悪さは拭えない。
ここでアメリカの販売店のように、自前のコーラを飲み、キャンデーをしゃぶりながらセールスマンの話を聞けるようにしておけば、お客はのびのびと自分のペースで納得しながら商品を買えるのではないだろうか。
日本の特殊事情から、こうはいかないという意見があるかもしれない。
しかし本当のサービスとはなにかという観点から見れば、学ぶのに決して小さなエピソードということはできないのではないかと思う。
出典:1963年(昭和38年2月発行Honda季刊誌)
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