本田宗一郎のことば
私はかく考える
(1954.S29.4 明和報 本田宗一郎)
私のおかれている立場は、オーケストラで言えば指揮者に相当する。諸君もよくご存知の通り、オーケストラに最も必要なのは諧調である。それなくしては、美しい旋律は決して生まれてこないのである。会社もまったくこれと同一といえる。仕事の能率の遅い人がいれば、他もそれに歩調を合わせなければならなくなってしまう。
現在、当社にとって最も大切なことは時間をいかに稼ぐかであり、それによってのみ、アメリカとも対抗できる可能性が生まれてくるのである。一時間でも一分でも早く客にサービスするという道義心から設計変更が行なわれたのであり、客に与えることによってのみ、我われも得られることを知るべきである。我われは誰しも社会において立派な生活をしたいと望んでいるにちがいないが、自己の職場を愛する気持ちのない人や、自己の仕事の欠点を知りながら改めないようでは会社をつぶすに等しい。
たとえば、ジュノオの風防にしても、ガラスにひびの入ることを知っていながら、自分で解決しようとする意志が見られない。我われは徳義心で商売をしているのであり、その前には、自分の課の仕事であるとかないとかなどは、一片の意義すらないのである。
諸君に当社が研究所ではないことを、もう一度よく考えてもらいたい。時間の流れには一刻の猶予もあり得ない。勤め人根性を捨て去り、物事を自主的に解決していく必要がある。諸君は小企業がなぜつぶれそうで、それでいてつぶれないかを知り、中小企業のおやじの気持ちになってもらわなくてはならない。
一昨年度の製品が市場価値があり、その後、設備が数段とよくなったにもかかわらず、見ばえしないのはなぜであろうか?一例をあげればバイトの使用法にしても、実に贅沢な使い方をしているといえる。諸君は、このままの状態に満足することなく、自分達の給料は自分達で作る、といった考えを持つべきである。
最もよきセールスマンはお客さんであることを常に考え、徳義心をもち、時間を見つめながらこの苦しい時期をのり切っていこうではないか。