本田宗一郎のことば

独自の技術を持つ尊さ

(1971.S46.4 社報 本田宗一郎)

 今日、日本は経済大国と言われている。しかし、技術面から見た場合の日本経済は、まったく逆だと思う。

 アメリカは特許やノウハウ(応用技術)の輸出で、年間十二億ドル以上を稼いでいる。これに対し、国外から買っている技術はその約十分の一。大変儲っているわけです。他方日本は、輸出の約十倍を外国に払っているのが現実なんです。だから技術屋の目で見た日本経済は、危なっかしいんです。確かに今は繁栄している。しかしいつまで、同じ状態が続くだろうか。また、他人から買った技術で、みな本当に誇りを持った仕事がしていけるだろうか。

 昔、私は浅間レースで何年も惨敗を続けた。外国の技術を導入した他社のレーサーに、我われのマシンはおよばなかったのです。しかし、それは我われの経験不足からくるものだと考えた。外国人が考えたものなら、我われにもできるはずだ。いやそれ以上のものを創り出そう。そうしてこそ、皆も誇りが持てるし、外国に輸出することもできる。こういう信念のもとに、みんなでまい進したことによって、現在の二輪の王座を築いてきたんです。そして、これとまったく同じことが、今日の公害問題についても言えると思う。

 無鉛化対策には、バルブを必要としないロータリーエンジンがよい。また、排気ガスの後処理装置を積載するスペースの点や、後処理が難しいチッ素酸化物の発生が少ない点でも、ロータリーが有利だ。こういう見方から、多くのメーカーがロータリー導入へと動いている。だが、レシプロエンジンでは問題の解決は不可能なのだろうか。排気ガス対策上重要な完全燃焼という点で、レシプロエンジンの方が優れていることをいかせないのか。

 CVCCエンジンは、これに対する一つの解答、新しい技術の方面である。そしてこういうときにものを言うのが、基本から蓄積した技術があるかどうかということなんです。新材料のバルブにしても、CVCCにしても、たゆまず積み上げた独自の技術をベースとして、初めて開発されたということ。そして、これら自らの手で創りだした技術を駆使することによって、見せかけでない、誇りのある繁栄ができるのだと確信します。

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