本田宗一郎のことば
常に魅力ある商品に
(1968.S43.1 社報 本田宗一郎)
かつて、オートバイの本家は英国であった。アメリカにもハーレーダビッドソン、インディアン、ヘンダーソン、とかいろいろなものが我われの若いときにあった。ドイツにはNSUという大物もあったわけです。英国にはトライアンフBSA、ノートンなどこういうメーカーがたくさんあったわけです。
この中に、我われは、あの山下(浜松)の工場から出たときには二十人たらずから始めて二十年目-今年二十年になるわけですが、この二十年たった現在、世界一のモーターサイクルメーカーにのし上がって、ちょうど英国で作っている台数と同じくらいの量を、我われが英国一国だけでも輸出しているということ、これは何か-。ほんとに誰の真似もしない、我われが独自で考えたものだから、向こうではエキゾチックとして非常に高く評価しているわけです。
それから、モーターサイクルというものは自動車が増えてくればなくなるんじゃないか、と思う馬鹿がいるんです。その論理がもし成り立つとしたら、これはとんでもないことなんです。なぜかといえば、アメリカは二人に一台の自動車を持っている。約一億万台の自動車がある。二億の人口で一億万台の自動車がある。そこで皆さんが作ったのがいちばん売れているということはどういうことなんだ。
我われがオートバイを最初に作ったときには、これが発達してくると自転車はなくなるだろうと言ったんです。ところが自転車はなくなるどころか、この頃サイクリングにまた復活して、どんどん増産しております。これは何か-。いま経済がどんどん拡大して発展しております。そうすると、初めは自転車からオートバイに乗りたい。オートバイに乗ってくると、今度は自動車に乗りたいという欲望がある。自動車があたりまえになってくれば、今度はオートバイに乗りたいという欲望がでてくる。この循環なんです。
現代では、オートバイは交通機関じゃないんです。交通機関だと思っているのは現代人じゃない。あれはレクリエーションの道具であると考えてもいいんです。
オートバイがだめだといって、欧州の方であんまり作らんもんだから、その点でもうちは助かったんだね。だめだという品物がなぜだめかと言えば、その商品に魅力がなくなったから、だめなんです。
その時代、時代にいつもみんなに魅力を持たれる商品にしておけば、いつの時代でも売れるということが言えるんです。
結局、我われがいかに努力してこれを我われのものに永遠にしておくか、ということだけなんです。これが要するに、二輪車の秘訣で、これはどの商売でも同じことなんです。これからの商品であるということで、どうか二輪車に情熱をうんとつぎ込んでいただきたいと思います。