本田宗一郎のことば
小学校閥
(1962.S37.12 社報)
学閥が問題になっている。戦前は軍閥が肩をいからせてバッコしたが、平和になった戦後は学閥が猛威をふるっているらしい。そこで有名大学をでなければいい会社に就職できず、その大学に入るにはいい高校、さらに下っていい中学、いい小学校と、いたいけな子供の上に、試験地獄が襲いかかる仕組みになっているらしい。
周知の事実だが、僕は小学校しかでていない。でていないからひねくれていうわけではないが、学歴のよし悪しですべてを決めようとする風潮はばかばかしい限りである。家がたまたま貧乏で学校にいけなかったばかりに、一生冷飯を食わなければならない理由がどこにあるのだろうか。
僕の会社にも大学出がたくさんいる。僕はいつも彼らに言うことにしている。
「君らは、学校で機械をやったとかデザインを専攻したとか、ひとかどの専門家のつもりでいるが、大学は四年といっても、一般教養科目があり、休みがあり、休講があり、そのうえサボったりして、結局一日七時間労働に割ってみると三か月かそこら工場に通った程度だろう。全然学校にいかない人より、学校にいった人の方がスタートが早いのは事実だが、長い人生のマラソンで、それをそのままゴールに持ち込めると思うのは間違いだ」
僕の会社は、いまのところ学閥というものは存在しない。もし作るとすれば小学校閥にしたいと思っている。これなら誰でも気楽に入れるからだ。