本田宗一郎のことば
三つの喜び
(1951.S26.12 月報 本田宗一郎)
私は、わが社のモットーとして「三つの喜び」を掲げている。すなわち三つの喜びとは、作って喜び、売って喜び、買って喜ぶ。
第一の作る喜びとは、技術者のみに与えられた喜びであって、造物主がその無限に豊富な創作欲によって宇宙自然の万物を作ったように、技術者がその独自のアイデアによって文化社会に貢献する製品を作りだすことは何物にも替え難い喜びである。しかもその製品が優れたもので社会に歓迎されるとき、技術者の喜びは絶対無比である。技術者の一人である私は、かような製品を作ることを常に念願とし努力している。
第二の喜びは、製品の販売に当たる者の喜びである。わが社はメーカーである。わが社で作った製品は代理店や販売店各位の協力と努力とによって、需要者各位の手に渡るのである。この場合に、その製品の品質、性能が優秀で、価格が低廉であるとき、販売に尽力される方々に喜んでいただけることは言うまでもない。よくて安い品は必ず迎えられる。よく売れるところに利潤もあり、その品を扱う誇りがあり、喜びがある。売る人に喜ばれないような製品を作る者は、メーカーとして失格者である。
第三の喜び、すなわち買った人の喜びこそ、最も公平な製品の価値を決定するものである。製品の価値を最もよく知り、最後の審判を与えるものはメーカーでもなければデーラーでもない。日常、製品を使用する購買者その人である。「ああ、この品を買ってよかった」という喜びこそ、製品の価値の上に置かれた栄冠である。私は、わが社の製品の価値は、製品そのものが宣伝してくれるとひそかに自負しているが、これは買って下さった方に喜んでいただけることを信じているからである。
三つの喜びはわが社のモットーである。私は、全力を傾けてこの実現に努力している。