本田宗一郎のことば
トップ企業の自覚に立て
(1967.S42.1 社報 本田宗一郎)
アメリカでは、自動車の安全性の問題でいろいろな議論がなされていることは、ご存知のとおりである。今年の九月九日には、事故の恐れのある車はすみやかに届け出をしないと、一件につき最高四十万ドルの罰金がかけられる、という法律が成立したんです。
ホンダでは、CT二〇〇(ハンターカブ九十cc)にチェンジミスの恐れがあるということで、他社に先がけていちばんのりで届け出をした。これは交通機関メーカーとして当然の義務であるとの判断で行なったものだが、これが日本には誤り伝えられて株価が下がっているわけです。当のクレームについては、部品をちょっとつければなおるごく簡単なものなんですが、すでにアフターサービス済みで問題は全然発生しておらない。
届け出はホンダに続いてG・M、フォード、クライスラー、アメリカンモーター、フォルクスワーゲン、ロールスロイス、ルノーなど世界一流のメーカーが軒並み続いており「俺の車はこういう欠点があり、こういう点に気をつけねばならんのだ」ということがはっきりして、かえって信頼がおけるとアメリカでは評判になっているんです。日本では反対の評価を下しているようだが、人間の命にかかわる問題なのだから、先に問題をさらけ出して警告するのは当然であると思う。
二輪の世界トップメーカーの責任を自覚し、き然とした態度をとりえたことに私は大きな喜びを感じる。
我われはナット一本、割ピン一本に至るまで絶対に信頼できる良品でなければ、それは商品としての価値がないと痛感している。
今回のアメリカでの安全問題は、そういう意味でホンダにとって非常によい勉強になったと思うが、今後、こういった考え方が本田技研発展のイデオロギーとなっていくことを、私は心から願っている。