藤澤武夫のことば
飛躍への原動力
(1963.S38.8 社報 藤澤武夫)
創立以来十五年というごく短い期間に、零から出発し、我われが念願としていた"輸出企業"としても目ざましい成果をおさめつつある。かつて夢物語と思われていたそれを、今ここに実現し得たことは、何とも痛快なことではないか。
また、我われ自身の手で、ここまで輸出を生みだし、そして日本人の頭脳の優秀性を海外に発揮してきたことは、大いに誇ってよいことと思う。
しかし、こういうことは、一朝一夕にはできるものではない。数々の試練を克服しながら、我われ自らの力で、築き上げてきたのである。
十年前、四億円にものぼる機械を輸入したことがあったが、そのドルを、我われ自身の手で稼ぐまでは、と創立記念行事を延期したこともあった。
今ここで、未来に大きく目を向けるとき、我われは決して現状に満足してはならない、と思う。
私は、この創立十五周年を契機として、更に新たな確信を引きだしたい。
それは、年間四百五十億円の目標に向かって大きく飛躍することである。この数字がいかに高い価値を持つかは言わずもしれたことであり、しかも短い期間に成し遂げてこそ、真価となる。
この目標をいち早く達成することは実に至難であろう。が、その達成こそはホンダの、否、日本の輸出企業の発展史上に、燦(さん)たる金字塔を築くことになろうと、胸おどるのである。
それまでには、苦しみもあろうが、みんなが、それぞれ個性をいかし、意欲を燃やし、各事業所が一体となってことにあたるとき、これは驚くべき力になるだろう。
私は全世界の人びとの愛と庇護のもとに、この力を結集すれば、近い将来、必ずこの目標を達成できるものと確信している。
我が国は、輸出なくして繁栄なし、と言われるほど、輸出に大きな期待をかけている。
だから、これを成し遂げることは、従業員、株主、販売店、協力工場の方がたを含めた"ホンダ"の発展をもたらすだけでなく、社会に対し、国家に対し、真に貢献できることとなる。
この躍進への努力こそ、即国家への奉仕につながるとしたら、企業として、日本人として、これ以上の誇りと喜びがあるだろうか。
私はこれが達成された暁には、さらに夢満ちた記念行事を盛大にやりたい、と思っている。
どうか、明るくおおらかに、創立十五周年を迎えてもらいたい。