藤澤武夫のことば

色彩の及ぼすスピード感への影響

(1957.S32.12 社報 藤澤武夫)


この間の浅間レースで、こんなふうに感じた人が多かったようだ "ヤマハは早い。ホンダは安定している"と。


ウチでは悪い道路を計算に入れて、安定する構造に車体を作ったようだ。地面に吸いつくような感覚があった。


 ヤマハは飛ぶように見えるが、ウチのはそのスピード感はない。時速九〇キロ以上の早さのその時の時速一キロの差は、視界に入る数秒の時間のうちではごくわずかなはずであり、私達にそんな差が分かるものだろうか。私達の眼はそんなに高級な測定器ではないはずだ。もちろん、競走という比較対照のもとにあることは確かであっても、他の車の走っていないときでも、そんなふうに思われた。これについては深くも考えないで帰京した。


が、最近私は事務管理の色のことで、合理化委員にベラベラしゃべっているうちに、フトこんなふうなことを思いついたのだが。


"ウチの車は黒と赤タンクで、強い色彩だから網膜に印象がこく映って消えない。ヤマハはあの色(ライトグレイ)だから、走り去る姿が周囲の土の色に早く同化して消えてしまう。色彩によって起こるスピード感覚の相違が手伝ったのではないだろうか"と。"色彩の及ぼすスピード感への影響"、こいつは研究して面白い課題にならないかな。