藤澤武夫のことば

科学に応(こた)えて

(1952.S27.8 月報 藤澤武夫)


今まで一般の人びとはエンジンというものは、自動車業、修理業、運転技術者等の取り扱うもので、大変難しいものと考えていました。故障が起きれば、すぐ何でもかんでも修理屋に持っていくものと決めていたようです。


だが、二十世紀も後半に入った今日、いかに後進国である我が国においても、いつまでもこの状態であるべきではないでしょうし、また一般の方々も何か簡単に科学する内燃機関をほしい気持ちが大分働いてきたように思われます。


この気持ちにピッタリ合ったのがわが社のカブ号ではないでしょうか。故障皆無で、しかも親しみやすく、何かしら触れて見たいようなカブ号。


今回カブ号を発売するにあたって、従来の方法をやめてあえてモーター業者のみによらず、一般自転車業者にひろく呼びかけたところ、時代の進歩と要求にマッチしてか業者諸氏は心よくこれに応じてくださり、今や一大活躍を始められました。


これは自転車業をなさる方々に仕事の新しい分野を開いた結果となりました。カブ号は六、七月度において合計五千台を北に南に、町から村へ、この方々を通じてお送りいたしましたが、クレームのあったのはタッタ三台で、しかも輸送中の事故にもとづくもののみでありました。


これを見ても業者はじめ一般の方々がエンジンそのものに親しみと知識を持たれるようになったことがわかりますし、一方、カブ号エンジンが画期的に進歩して「修理不要」にまで高揚されたことが立証されたと思います。


戦後漸次発達している我が国エンジンおよびオートバイ製造界に、さらに一大貢献をなしたものと自負するにたりましょう。


本田社長が先般発明技術をもって社会に貢献したかどにより、藍綬褒章を授与されましたが、今カブ号エンジンが非常なご賞賛をいただいていることより考え、いささか授賞されたことにお応えできたことと信じます。


ただいまカブ号は内需だけでも月一万台では不足を感ずるありさまですが、一方輸出にも大きな希望を持っております。


私は本年の年頭にあたって本年こそ三十万ドル以上の輸出をする計画だと申しあげましたが、カブ号をもってすれば、この数字は容易に成し遂げられることがわかりました。


あの物資の豊富で技術の進んだアメリカのデトロイト市より、カブ号に対して別掲のごとき賞賛の言葉をいただいたことを見ても、これが世界一流品であり、輸出の将来の極めて明るいことがおわかりになるでしょう。


私どもはこの一つの成功に有頂天になるわけでは決してありません。今後とも社長はじめ技術者、従業員全員で、より優秀な、より大衆性のある製品を矢継ぎ早やにお目にかけるでありましょう。


そして一般の方々に科学性を浸透させ、それが我われの生活の中に融け込むものであることを信じ、大いにご期待をいただきたいと願うものであります。