藤澤武夫のことば

火燵(こたつ)

(1955.S30.11 やまと弘報 藤澤武夫)


夜風の寒いこれからの冬、でもいいですな、あの火燵というやつは。ヤグラ火燵など、ごく少ない熱量でも充分暖かい。われら貧乏国独特の生活工夫ですが、みみっちいなどと言うなかれ。夕げを終えて一家団欒(いっかだんらん)の話題もはずむだろうし、また外の吹雪をよそにぬくぬく読書にふけるのも冬の楽しさの一つ。左党ならヤグラの上で熱燗一杯といくのも悪かろうはずはないでしょう。いや思い出しました。なによりもまして、人知れずそっと手を握り合うなんて、いかにも純日本的なロマンスの場所じゃございませんか。


かく庶民的な暖房、火燵は昔から、かまど等の置火がその熱源でしたが、木炭、たどん、その他も使われてきました。しかし温度調節が自由である、ガスを発生しない、安全度も高い、等々、火燵の熱源として電熱にまさるものはないようです。(なに?…電気火燵でもガスは発生しますって?。ふむ、そいつはむしろ道徳ないし生理学の問題でしょうな)


電力事情も次第に好転して"家庭電化"は順調に進んでいる今日、置火燵専用の電熱器もラジオや洗濯機と同様に電気メーカーによって良い品が売りだされています。


その構造はいたって簡単で、三〇〇~五〇〇ワットのニクロム線発熱体、バイメタル式調温装置、安全ヒューズ、点滅スイッチ等がその主な部品であると思いますが、大体どこのメーカーも似かよった製品になっています。今、これらの中から、ナショナル、三菱、東芝の三有名品をとりあげて比較して見ますと、ナショナル、三菱の二つはほとんど大差なく、若干高いだけあって後者は手のこんだ工作のように見受けられました。他社のもこれと大同小異、取り扱いの上には相違はあまりないようです。しかし東芝のものは三菱などと比べると、塗装もよくなく全体として思い切って手を抜いた感じ。もっとも火燵の中では見えることもなく実用本位でよいわけです。が、他とは違うちょっとした特長をもっていました。入口のコード以外にもう一本のコードがあって、その先端にスイッチがつけてあるのです。これによって掘り火燵の下なんかに潜らなくても温度の調節はできよう……って寸法。


これですね、アイデアというやつは。類似品の多い中で、使う身になって考えたほんのわずかな思いつきが優れた商品となる、そのいい例だと思います。


そして値段は少々高くても客は喜んで買っていくでしょうこと……。


こういったアイデアこそ、わが社のオートバイにも是非ほしいものです。


誰かありませんかね?