藤澤武夫のことば
本田技研の進む道
(1962.S37.6 社報 藤澤武夫)
二輪車の輸出
世界中でまだまだ自転車が動いているという事実をみてもエンジンつきの二輪車が悪くなるということは考えられない。だから二輪車は駄目だということは、品質や性能が劣るということと、それを作る経営者が悪いということじゃないかと思う。
最近欧州では二輪がよくなってきている。これは日本を見習って、見直してきたんだと思う。ここで大事なことは、駄目ではないと分からせたものが先手をとる。駄目だと思った者は後手にまわってしまう。
貿易の方でも、今年は百億程度に輸出がふえ、来年はその倍、そしてその倍の四百億もそう遠くないだろう、という明るい見通しをもっている。八幡製鉄の輸出が二百五十億とすると、ホンダがトップになってしまう。それが四、五年のうちに実現する。これは大変なことだが、あくまで忘れてはいけないのは、自分達はよい物を作らなければいけないということ、それをつかんでくれることだ。
貿易に関連してベルギー工場であるが、これは小型エンジン輸出のテストケースとして考えている。うちの小型エンジンで世界を埋める。うちのエンジンをつけたいろいろな車体が、世界中を走りまわる、そういうテストケースとして考えている。ベルギーの工場は必ずしも、無制限に大きくすることは考えていない。ベルギーからアフリカへ輸出されるということであれば、アフリカに工場をつくることを考えてもよい。外国のメーカーにエンジンを売るということも考えられる。
金より知恵
レイアウトにしろ、設備にしろ、今、金を使わないことにしたい。従って四輪を作るにしても、みんなの知恵でやっていきたい。そうやるところにも一つのいき方があるのじゃないかと思う。端的にいうと、千台や二千台の車は今の設備でできると考えている。その程度のものに金をかけねばできない、というのなら、まだ知恵を出しきっていないということだと思う。
今までは設備についてどうこう言わなかったが、やはり金のないときには金のないやり方でみんなから知恵を出すということをしなければいけない。
おそらく今年の増産を去年やったら、もっと人がいただろうと思う。
そこだけでも人間一年間の進歩は大きい。
今度四輪をやるんだっていろいろ理想的な設備があるだろうが、それをやったとしても、次にはもっと金がいるようになる。最高、最高とおっかけて行った場合、企業として果たしてどうか、人間の知恵がそこにロスされていないか、ということも十分見きわめる必要があると思う。
量産の強味
ここでみんなが気をつけなければならないのは、アメリカにおける量産の強さということでてるある。アメリカで量産でこなしているものを日本でやった場合、現状では到底太刀打ちできない。アメリカで七十万のシボレーコルベアを、日本でその値段で作ることはできない。人件費はアメリカより日本の方が安いのにこれだからよほど警戒しなければいけない。アメリカが小型エンジンを量産したら、現状ではひとたまりもないんじゃないか。コストダウンというものを徹底的に掘り下げて、量産の強味というものを身につける必要がある。みんなに頑張ってもらいたい。
将来のうちのあり方ということを考えると、製品は多岐にわたるけれども、基本は小型エンジンというものにおいてつきつめていきたい。