藤澤武夫のことば
壮年の力を持った企業に
(1963.S38.12 やまと弘報 藤澤武夫)
ある懇談会の席上で、私はこんなことを言いました。チャーチルが書いた第二次大戦中の回顧録の中に"青年は革新を好む、中年は妥協を求める。そして晩年は保守だ"という。ところで、妥協というものは現在までのものの中へ革新的なものを入れて、そこから新しいものへ、そしてできうる範囲のものへとワン・ステップを踏むことが妥協だと言えます。で、保守であった場合は要するにもう晩年で、過去がよかったにしても保守だけではよどみができるのです。
これを企業にたとえて言えば、この両方を組み合わせてやっていくところにはじめて壮年の企業があるといえると思うのです。またこういうことをくり返して、常に新しい血が通ってさえすれば、企業というものは壮年の力を持つのです。
要するに、判断力とか知恵とかのいろんなものの積み重ねのうえに新しいものをのせて、それを咀嚼(そしゃく)してつぎの段階へ行く、それがなければたとえどんな架空なことを言ってみたところで、現実と離れていたら役に立たないわけです。今まで積みあげてきたものには多分にいいものが含まれている。今まで本田技研でやっていたことを否定したならば、たとえば今の設備があり、建物があり、財産があっても、あなた方とまったく別な七千人の人が入ってきたとすればこれは全然ゼロで価値がないのです。我われがやってきたことは相当価値の高いものなのです。これに肉づけしていけばまちがいない。過去はそうであったということだけでは、世界の荒波の中に入ってはいかれないのです。