藤澤武夫のことば
企業安定の底にあるもの
(1956.S31.8 社報 藤澤武夫)
好況時にあるときは企業の実態が深く検討されずに、表面の現象に眩惑(げんわく)されがちである。これは非常に危険なことで、いわゆるノドモト過ぎれば熱さを忘れる、というていのものであってはならないと思う。
企業は不況時にあわてて対策を講ずるべきものではないし、また実際にはできないことだ。なぜなら、不況がいつどのようなかたちで押し寄せてくるかは、昭和四年(一九二九年)に始まった世界的大不況を誰も予測しなかったように、まったく予期し得ないからである。
この不況の度合はどのぐらいのものであったかというと、アメリカの自動車年産五百三十六万台を、急激に四分の一の百三十七万台にまで減産せざるをえないぐらいのものであった。しかも五年後の一九三四年になって、年産二百七十五万台にまでようやく復活するぐらいのものであったことからも想像できよう。
そのような場合にあわてて対策をたててもまったく泥縄式にならざるを得ないので、一歩誤れば企業を浮沈の瀬戸際に追いやったり、企業を存続させたにしても、従業員を失業のちまたに追いやったりするような結果を招くことが多い。
だから不況がいつくるかということを予測し得なくても、いつきても耐えるような対策は、やはり好況時に講じておかなければならない。
このような企業の将来ということに頭を悩ますのは、経営者として当然のことであるが、経営者だけで解決をつけられる問題ではない。難しいことだが、皆で考えていこう。