HONDA PHILOSOPHY に込めた想い
2014年12月現在
以下1992年1月1日にホンダより発行された冊子『ホンダフィロソフィー』より抜粋
ホンダグループで働く仲間の道しるべですね!
ホンダフィロソフィー (1992年)資料
序文
ホンダは1948年に本田宗一郎によって創設された企業です。自転車にエンジンを取りつけた「バイクモーター」の製造から出発し、現在では二輪車、四輪車、汎用機の分野において、リーダーシップを発揮するまでに成長してきました。
ホンダの成長の原動力のひとつは、本田宗一郎、藤澤武夫という創始者のリーダーシップでした。ふたりの創始者がわたしたちに残された最も価値のあるものは、企業哲学です。今後ともわたしたちの事業活動の基礎になるものはこの企業哲学です。
今やホンダは世界規模で企業活動を営んでいます。全世界のホンダで働く人たちは、共通の哲学(フィロソフィー)を理解し、尊重し、共有し、実践することが必要です。
このフィロソフィーは、ホンダグループの全ての企業とそこに働く人たちの行動や判断の基準となるべきものです。また、ホンダグループ内の企業はこのホンダのグローバルなフィロソフィーに則した独自の社是や運営方針を採用してもかまいません。
「ホンダフィロソフィー」は、たんなる「ことば」にとどまっていては意味がありません。言葉が重要なのではなく、フィロソフィーの内容が十分理解され行動に移されて、企業文化として定着していくことが重要であり、そうすることがホンダの将来の発展につながるものと信じてます。
理 念 な き 行 動 は 凶 器 で あ り 、
行 動 な き 理 念 は 無 価 値 で あ る 。
( 本 田 宗 一 郎 )
1992年1月1日
取締役社長 川 本 信 彦
基本理念
人間尊重
三つの喜び
社是
わたしたちは、世界的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす。
運営方針
・常に夢と若さを保つこと。
・理論とアイデアと時間を尊重すること。
・仕事を愛し職場を明るくすること。
・調和のとれた仕事の流れを作り上げること。
・不断の研究と努力を忘れないこと。
基本理念
ホンダの企業哲学の中心は1956年に制定された「社是」です。「社是」の基礎となるものは、次の二つの基本的な信念です。
人間尊重
三つの喜び
人間尊重
人間は本来、夢や希望を抱いてその実現のために思考し、創造する自由で個性的な存在です。ホンダは、自由、創意、知恵、努力、意欲といった人間が本来持っている特性を育み伸ばしていきたいと考えます。
ホンダは、共通の目的の実現に向かってそれぞれが役割をになう個々人の集団です。その役割を果たす過程で一人ひとりはのびのびとその持てる特性を発揮することが期待されています。企業のどんな成果も、こうした一人ひとりの努力の結果です。一人ひとりがその努力のゆえに尊重されなけれはなりません。
このような視点から、ホンダは次の三つをホンダにおける人間尊重の理念の柱とします。
・自 立
自立とは、既成概念にとらわれず自由に発想し、自らの信念にもとづき主体性をもって行動し、その結果について責任を持つことです。
・平 等
平等とは、お互いに個人の違いを認め合い尊重することです。また、意欲のある人には個人の属性(国籍、性別、学歴など)にかかわりなく、等しく機会が与えられることでもあります。
・信 頼 :ホンダは、ともに働く一人ひとりが常にお互いを信頼しあえる関係でありたいと考えます。信頼は、一人ひとりがお互いを認め合い、足らざるところを補い合い、誠意を尽くして自らの役割を果たすことから生まれます。
ホンダとともに働く一人ひとりや企業が自立した個人あるいは企業として平等の関係に立ち、お互いを信頼し、その持てる力を尽くすことがホンダの考える人間尊重です。
三つの喜び
ホンダは、ホンダでともに働く人たち、あるいはホンダと直接に、またはホンダの商品を通じて関わりを持つ持つことになる人たち一人ひとりが、その体験を通じてともに喜びを分かちあえるような信頼関係を築かなければならないと信じます。この信念をあらわしたものを「三つの喜び」とよんでいます。
わたしたちの究極の目標は、商品を買ってくださる人、商品を売ってくださる人、そして商品をつくる人が喜びを分かちあえるようにすることです。
第一に、ホンダの商品を買ってくださるすべてのお客様の「買う喜び」があります。お客様に満足していただくだけではこの「喜び」は生まれません。「買う喜び」を感じていただくには4つのステップがあります。まず、お客様に商品とその基本的なコンセプトを分かっていただかなければなりません。次にお客様に商品を受け入れ購入する決断をしていただかなければなりません。第三に、お客様が商品に満足していただくことが必要です。そして最後に、わたしたちがお客様の期待を上回る商品やサービスを提供することができれば、お客様に「買う喜び」を感じていただけます。
第二は「売る喜び」です。「売る喜び」を達成する上で重要なのは、お客様と商品の関係だけではありません。ホンダの商品はお客様とわたしたちとの間に人間関係を生む機会を提供しているのです。商品の品質や性能が性能なが優れていれば、その商品の販売やサービスに携わる人たちは、お客様に対してそのような商品を提供する誇りとよろこびをもつことができます。また、心をこめた応対やサービスによってお客様に喜ばれることも自らの喜びにつながります。ホンダの販売サービス網、特に販売店と代理店は、質の高い商品とお客様に喜ばれるサービスの両方を提供することで、お客様と信頼関係で結ばれ喜びをわかちあえる関係を持つことができます。
ホンダ社是
社是とは、ホンダが何のために事業を営むかというホンダの企業活動の目的を表したものです。
本田技研工業株式会社の社是は1956年に制定されました。(1956年1月発行23号社報)
わが社は、世界的視野に立ち、顧客の要請に応えて、性能の優れた、廉価な製品を生産する。
その後ホンダがその企業活動を世界に広げていく過程で、この日本語の社是にもとづいて、1962年に英語の社是がつくられました。その際に、ホンダの企業活動の焦点が「お客様の満足」にあることをより明確に示すような表現になりました。
Maintaining an international viewpoint,we are dedicated to supplying products of the highest efficiency yet at a reasonsble price for worldwide customer satisfaction.
ホンダグループは世界的規模で企業活動を展開しており、このフィロソフィー発行を期に1962年に作られた英語の社是をホンダグループ全体の社是【「ホンダ社是」】と位置づけました。同時に、本田技研工業の社是も、1956年の創業社是から、その趣旨をより明確にしたホンダ社是にあわせて、下記の表現にあらためます。
わたしたちは、世界的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす。
社是は、「この企業の存在理由は何か」ということをそこで働く全員が理解するために必要不可欠なものです。
この「ホンダ社是」はホンダグループ全体の目的を表したものです。すべてのホンダグループの企業は、「ホンダ社是」の表現がその企業の目的と全面的には符号しないとしても、この「ホンダ社是」を共有してください。
社是をこう読む
「ホンダ社是」をより良く理解するためにその部分ごとに内容を説明します。
●世界的視野に立ち
ホンダはその商品を世界中で販売しています。競争は日本、北米、ヨーロッパ、アジアなど世界のあらゆる場所で行なわれています。お客様が商品やサービスに期待する特性や水準はそれぞれの地域でお客様の期待を上回る商品やサービスを提供し、お客様からNO 1の評価を得ることに努めなければなりません。
同時に、私たち一人ひとりの仕事の質(効果、効率、創造性、専門性、協調性など)を、自分の部門や領域、地域といった狭い視点からではなく、常に世界的な支店から振り返り、世界的水準を目指して向上させるよう努力しなければなりません。
●世界中の顧客の満足のために
わたしたちの仕事はホンダの商品を買ってくださるお客様が存在することによってのみ保障されます。したがって世界各地のお客様一人ひとりの期待に応え、さらにはそれを上回るよう、わたしたちは全員、それぞれの持ち場、持ち場で最善の努力をしなければなりません。
また、「顧客の満足のために」とは、お客様の具体的要望に応えるという意味だけではありません。社会、文化、生活様式など、時代の変化にも対応しなければなりません。わたしたちは常に時代を先取りしなければなりません。お客様の潜在的要望をいち早くとらえる高感度のアンテナをもつことが必要です。
●質の高い商品を適正な価格で供給する
わたしたちが求める質の高い商品は、安全・環境と性能の面で最善の設計を行い、最も適切な原材料を使用し、最も生産性の高い製造方法で生産され、お客様に喜ばれる販売とサービスを行なう、という一連の企業活動によってつくられるものです。
わたしたちは同時に商品を適正な価格で提供しなければなりません。いくらよい商品でも、お客様が価格を商品の価値に見合わないと考えれば、その商品を買っていただけません。適正な価格を実現するために、わたしたちは、商品の設計、製造、販売やそのほかの事業活動すべての面で最高の効果・効率を追求しなければなりません。そうすることで、お客様にとって価値のある商品を、適正な価格で提供することができます。
質の高い商品と適正な価格とは相反する面がありますが、商品としてはこれを同時に成り立たせることが求められます。この双方を満足する新たな方法を見つけることから真の改善がうまれます。
●わたしたちは全力を尽くす
ホンダの成功を作り上げてきたのは、共通の目的に向かってともに努力する仲間です。「わたしたち」ということばは、企業を構成する人一人ひとりの重要性を認識して用いられています。ホンダでは、全員がそれぞれの役割を持って企業活動に参画しています。一人ひとりが共通の目的の実現に向けて自ら考え主体的に行動する個人であり、同時にお互いに研鑽し信頼しあう仲間であることを「わたしたち」ということばは表しています。そして「全力を尽くす」ことは真の働く喜びにつがります。
運営方針
ホンダは、一人ひとりが日々の業務を遂行する上での指針として、5項目の運営方針を定めました。
これらの方針は、ホンダでともに働くすべての人たちがホンダの基本理念と社是を理解し、これを日々の業務の中で実践し、共有し、これを日々の業務の中で実践するためのものです。
また、マネジメントの任にある人は、自ら実践するだけでなく、部下の一人ひとりがこの方針を実践できるよう、それぞれの職場環境を整える責任を負っています。
5項目の運営方針とは次のとおりです。
・常に夢と若さを保つこと。
・理論とアイデアと時間を尊重すること。
・仕事を愛し職場を明るくすること。
・調和のとれた仕事の流れを作り上げること。
・不断の研究と努力を忘れないこと。
●常に夢と若さを保つこと。
ホンダは人々の夢をかなえる商品を提供する企業であると認められています。これからも「夢のある若々しい企業」であり続けたいと考えています。同時に、ホンダで働く一人ひとりがそれぞれの夢を持ち、それを実現する若さを持って欲しいと願っています。
夢はわたしたちを動かす前向きな推進力です。夢はわたしたちの一生を通じて原動力となりうるものです。夢があるから、わたしたちは失敗をおそれずチャレンジを続けることができます。わたしたちは夢を実現するために障害を克服しようとします。夢を追い求める中で、わたしたちは自らを奪い立たせ、周囲の人に働きかけます。それが若さの源泉です。夢を実現した時にこそ、真の達成感を得ることができます。
若さとは大きなのぞみを持つことです。また、若さとは理想に対して全力を尽くしてそれを具現化しようとする精神であり、みずみずしい感受性をもって物事を学びとろうとする熱意です。それは肉体的な年齢とは直接関係ありませんが、経験を積むと保守的になり失われやすいものでもあります。若さは最高、最善を捜し求める力です。若さは、あたりまえと思われているものにも挑戦し、リスクをおかすことをいといません。若さとはチャレンジ精神です。
ホンダは、常に先進でありたい、時代のトレンドを作り出す企業でありたいと考えます。先進であるためには、競争相手よりも早く行動し、困難に挑戦しなければなりません。それはしばじばリスクを伴います。ホンダで働くすべての人たちは夢をいだき若き、つまりチャレンジ精神をもって仕事に取り組まねばなりません。
●理論とアイデアと時間を尊重すること。
ホンダがホンダであるためには、常に「先進」であることが必要です。そのためには、理論に裏付けられた新しいアイデアを生み出し、最も効果的で効率の高い方法を考え、それを実践することです。
わたしたちの行動には理論の裏付けがあるべきです。わたしたちは、しばしば日常の仕事の仕方が理論にもとづくものであるべきだということを忘れてしまいがちです。しかし、日常行なわれている仕事のやり方と理論とを混同してはなりません。日常のやり方を常に振り返り、その裏付けとなっている理論を理解するように努めてください。そして、理論にもとづいた新鮮なアイデアで現状にチャレンジし、あるいはこれを変えることをおそれないでください。新鮮なアイデア、フレキシビリティ、創造性、そして革新があってこそ、ホンダは先進であり続けることができます。
また、時間は限られた資源です。この資源をいかに有効に使うかが、仕事の効果・効率を高めるためのカギです。そのためには、シンプル・集中・スピードの3つの取り組みが重要です。
(1)シンプル―考え抜いた物事の本質、やらねばならないことの真髄をつかむ
(2)集 中―最も大事な目標を達成するために最も必要なことに資源と思考を集中する
(3)スピード―迅速な実行
時間を尊重するという考え方にはまた別の要素もあります。それは時間通りに物事をすすめるということです。ものごとにはすべてタイミングというものがあります。例えば、レースにおいて、マシンとドライバーがわずか1分でもスタート時刻に遅れたとしたら、そのチームは出場権を失い皆の努力はムダになってしまいます。
わたしたちの行なっているあらゆる企業活動には決められた日程があります。時間を最も効果的に利用するには、準備を整えスケジュールを守ることが大切です。
●仕事を愛し職場を明るくすること。
ひとりの人間にとって労働とは大変尊いものであり、価値あるものです。それはまた喜びと誇りをもたらすものです。その喜びと誇りは、チャレンジ精神を持ち自らの創造性と知性を最大限発揮することによって生まれます。
毎日の作業についいて一番良く現実を知っているのはその現場て働いている一人ひとりの人です。これらの人たちは職場環境をどのように改善したらよいかを考え、実行するのに最も適した人たちです。管理監督者の立場にある人は、NHサークルや改善提案などを奨励し、彼らの改善への努力を支援する必要があります。こうした努力の積み重ねが、より良い職場環境と一人ひとりの達成感、そして
結果的には競争力の向上につながります。
ホンダの仕事の進め方の基本はチームワークです。一人ひとりはチームメンバーでありチームの目標が何であるかを理解し、自分の役割を認識して仕事を行なわなければなりません。すべてのチームメンバーにはチームの目標達成に寄与する機会が与えられ、自らの役割を果たす義務があります。
チームで仕事をしていくと、誰の担当とは明確に決められていない領域(グレーエリア)で問題が発生することがあります。そのときに全員が「自分の責任の範囲外である」と考えたとしたら、その状況は改善されずに残り、問題は発展してしまうかも知れません。時にはその問題がより大きな問題に拡大してしまい、企業内部だけにとどまらずお客様やお取引先に迷惑をかけることになります。グレーエリアで問題が発生した場合には、チームメンバー全員が率先してその解決のためきょうりょくすることが大切です。ホンダで働く全員が毎日の仕事をする際にチームワークという考え方を心にとめておけば、仕事の喜びも高まります。
チームが効果的で調和のとれた働きができるようになるためには、チームメンバー間の十分なコミュニケーションが必要です。話し合い、フィードバック、情報の共有化がそれぞれのチーム、課、部などの部門内や部門間で全社的になされることが奨励されなければなりません。組織内のあらゆるレベルでの2ウェイコミュニケーションが不可欠です。
管理監督者の立場にある人は、自分の部下の一人ひとりが働く喜びを感ずることができるよう環境を整える責任があります。そのために留意するべき点は例えばつぎのようなものです。
・安全で整理整頓された職場環境
・組織だった仕事のゆり方と公平な業務分担
・一人ひとりが企業活動に参画できる機会の保障
・意思疎通の努力
・オープンマインド
・一体感の醸成
・目的の共有
・達成感の共有
●調和のとれた仕事の流れを作り上げること。
調和のとれた仕事の流れは、効果的で効率の高い業務を行なうために大事な点です。仕事の流れは、ムリがなく、わかりやすいものでなければなりません。ゆきすぎや異常は調整され排除されなければなりません。
一人ひとりの仕事は、自分の属するチームの仕事の一部であると考えればわかりやすくなります。同時にその仕事はより大きなチーム―課や部―の仕事の一部です。
仕事の流れは川の流れに例えることができます。つまり部門や個人の仕事には、その成果をうけて仕事をする「下流」にあたる部門があります。自分や自部門の仕事の成果は、この「下流」にあたる人や部門の仕事の成果に大きな影響を与えます。調和のとれた仕事の流れを作りあげるためには、下流の位置にある人や部門を「お客様」と考えて仕事をすることが大切です。「お客様」の要望や意見を謙虚に受け止め、自らの仕事の改善に結びつけるよう常に努力してください。そこにお互いの信頼が生まれ、調和のとれた仕事の流れが出来上がっていきます。
調和のとれた仕事の流れを実現したときには、リズムと一体感が生ずるものです。
●不断の研究と努力を忘れないこと。
わたしたちは、現状に満足せず、常に向上を求める努力を怠ってはなりません。現状を知り、どうあるべきかを自ら考え、あるべき姿を実現するには何をしなければならないかを見つけるように努めてください。そして目標を決め、安易な妥協をせず、失敗を恐れず、その達成に向けて誠実に取り組むことです。これがホンダのエネルギーとバイタリティの源泉です。
研究と努力は常に価値があるものです。しかし、しばしば、研究がはっきりとした前進をみたらさないことがあり、わたしたちは努力がムダではないかと思いがちです。しかしひたむきに努力すれば、どんな場合でもその過程で得た知識や経験が未来への糧となります。
研究と問題解決の上で重要な考え方が「三現主義」です。この考え方にもとづいて、わたしたちは次のような行動をとることが必要です。
・現場に行くこと―例えば、工場の製造現場や第一線の営業活動の場に行く
・現物(及び現状)を知る―技術的要素と人間的要素の両方の現実に触れ、視察し、じかに接して情報を得る
・現実的であること―現場て現実を知って得た情報を用いて現実的に評価や判断を行なう。
このような直接的な経験が問題解決の知恵を生み出します。
ホンダは常にチャレンジを続けてきた企業です。チャレンジを続けることがホンダの成功をもたらしました。失敗を経験したことも事実ですから、不断の研究と努力を怠らなければ失敗から次の成功へのカギを得ることもできます。
出典:「ホンダフィロソフィー」より
■発行日 1992年1月1日
■発 行 本田技研工業株式会社